OTONIWAスタジオの最強アイテム1|アナログミキサー SSL XL-Desk


掲載写真はOto-Niwaの既存設備写真です。SSLレコーディングミキサーとコントロールルームの実際の環境を掲載しています。
この記事の要点
愛媛県松山市道後緑台のOTONIWAスタジオでは、アナログミキサー「Solid State Logic XL-Desk」を常設しています。
私たちがXL-Deskを使う主な理由は、低ノイズで余裕のある信号経路、SSLらしい分離感・クリアさ・パンチ、100mmフェーダーによる操作性、そして録音内容に合わせて500シリーズの機材を組み替えられる拡張性です。
XL-Deskの強みは、次の4つです。
- 音質:低ノイズと十分なヘッドルームで、細かな表情と音のピークを扱いやすい
- 音作り:SSLらしい分離感・明瞭さ・パンチを土台に、VHDで倍音も加えられる
- 拡張性:18スロットの500フォーマットラックへ、APIを含む対応機材を組み込める
- 操作性:100mmフェーダーと4系統のミックスバスにより、耳で聴きながら素早く判断できる
高価な機材を通せば自動的に良い音になるわけではありません。演奏、声、マイク、録音環境を整えたうえで、どの音をどの経路に通すかを判断する。その積み重ねを支える中枢が、OTONIWAのXL-Deskです。
SSL XL-Deskとは
XL-Deskは、英国の音響機器メーカーSolid State Logic(SSL)が、DAWを中心とする現代の制作環境向けに設計したアナログコンソールです。
SSL公式仕様では、16系統のモノチャンネルと4系統のステレオチャンネル、合計20本のチャンネルストリップを装備。1〜8チャンネルにはVHDマイクプリアンプがあり、4系統のミックスバス、18スロットの500フォーマットラック、100mmフェーダーも備えています。スロット17・18にはSSL Stereo Bus Compressorが搭載され、Mix Aに接続されています。
大規模コンソールの考え方を、DAWと組み合わせやすいサイズへ凝縮した一台です。
レコーディングで気をつけたいS/N比とは
S/N比は、録りたい音である「Signal(信号)」と、機器や環境から生じる「Noise(雑音)」の比率です。一般に数値が大きいほど、必要な音に対してノイズが小さい状態を示します。
ただし、レコーディングではカタログの一つの数値だけを見ればよいわけではありません。小さすぎる入力を後から大きくすればノイズも一緒に目立ちます。反対に、入力を上げすぎれば音がひずむ可能性があります。録音時には、音のピークを受け止めるヘッドルームを確保しながら、適切なゲインで信号を受けることが大切です。
XL-Deskのオーナーズマニュアルには、次の性能が示されています。
- ライン入力/ALT入力からチャンネル出力までのノイズ:-86dBu未満(20Hz〜20kHz)
- ライン入力/ALT入力からミックスバスまでのノイズ:-83dBu未満(1フェーダー、20Hz〜20kHz)
- ヘッドルーム:10kΩ負荷で+24dBu超
- 周波数特性:ライン入力/ALT入力からチャンネル出力まで20Hz〜40kHz、±0.2dB
メーカーは単一の「S/N比」を掲げるのではなく、経路ごとのノイズやヘッドルームを示しています。OTONIWAが感じるS/Nの良さも、こうした低ノイズと余裕のある信号経路を、現場で正しくゲイン設定して初めて生きるものです。
ボーカルの息づかい、アコースティック楽器の余韻、音が消える直前の細かな表情。静かな部分まで丁寧に残したい録音ほど、ノイズの少ない信号経路が重要になります。
さらに、ミックスでは複数チャンネルの信号を重ねます。各経路に含まれるノイズもゼロではないため、入力からバスまでの一つひとつが低ノイズであることは、曲全体の静けさと見通しを保つうえで大きな強みになります。ただし、アナログ機材は接続するだけでS/Nが良くなるわけではありません。ゲイン不足、不要に長い配線、電源や接地の問題を避け、機材ごとに適正なレベルで受け渡すことが必要です。
アナログミキサーとデジタルミキサーの違い
XL-Deskの信号経路はアナログです。公式の信号フロー図にも、モノ/ステレオチャンネル、500シリーズのインサート、ミックスバス、モニター出力までをつなぐ「XL-DESK Analog Overview」が掲載されています。XL-Desk本体の中で、音声をデジタルデータへ変換して演算する構成ではありません。
一方、アナログ入力を持つデジタルミキサーでは、一般に入力した音をA/Dコンバーターでデジタル化し、内部のDSPでレベル、EQ、コンプレッサー、ミックスなどを処理します。アナログ端子から出力するときは、D/Aコンバーターでアナログ信号へ戻します。例えばヤマハのデジタルミキサー01V96iの公式仕様には、24bitのA/D・D/Aコンバーターと32bitの内部処理が明記されています。
録音入力の流れを簡略化すると、次のようになります。
- XL-Deskを使う場合:マイク/楽器 → XL-Deskでアナログ処理 → 外部A/Dコンバーター → DAW
- アナログ入力のデジタルミキサーを使う場合:マイク/楽器 → ミキサー内のA/D変換 → デジタル処理 → デジタル出力、またはD/A変換してアナログ出力
XL-Deskの強みは、ミキサー内部でA/D・D/A変換を挟まず、フェーダー、バス、500シリーズのアウトボードまでアナログ信号のまま音を作れることです。サンプルレートやビット深度によるデジタル演算をミキサー内部で行わず、回路へどのレベルで音を入れるかによって、クリーンさ、余裕、倍音、まとまり方を調整できます。
OTONIWAが「デジタリーな音にならない」と表現するとき、それはデジタルミキサーの音が悪いという意味ではありません。XL-Deskの内部でデジタル変換やDSP処理を行わず、アナログ回路とアウトボードを通した質感のまま、最後のA/D変換まで音を設計できるという意味です。現在の高品質なデジタルミキサーやコンバーターも高い性能を持つため、優劣ではなく、音作りの方法と目的の違いです。
なお、DAWへ録音する時点ではA/D変換が必要です。また、DAW内のトラックをXL-Deskでアナログミックスする場合は、DAWから出すためのD/A変換と、まとめたミックスをDAWへ戻すためのA/D変換が必要です。「XL-Deskなら制作全体で変換が一度もない」という意味ではなく、XL-Desk本体のミキシング経路に変換処理がないことがポイントです。
SSLならではのクリアさを、素材のまま届ける
私たちがXL-Deskに感じる魅力の一つは、SSLらしいクリアさです。
ここでいうクリアさは、単に高音が明るいという意味ではありません。音数が増えても、それぞれの輪郭や前後関係を捉えやすく、必要な音を判断しやすいことです。SSLもXL-Deskの特徴を「separation, clarity and punch(分離感、明瞭さ、パンチ)」と説明しています。
音をただ無色にする機材でもありません。内蔵VHDプリアンプは、クリーンな録音に加え、入力ゲインと設定によって倍音を加えられます。素材を素直に録るのか、わずかな温かさやエッジを加えるのか。作品に合わせて選択できます。
「完璧な音」は、機材だけで決まるものではありません。だからこそOTONIWAでは、XL-Deskの透明度を土台に、演奏者や作品に必要な質感を判断します。
APIを含む500シリーズで録音経路をカスタム
XL-Deskの大きな特徴が、18スロットの500フォーマットラックです。
500シリーズは、マイクプリアンプ、イコライザー、コンプレッサーなどを共通規格のラックへ装着できるモジュール方式です。XL-Deskでは、SSL製だけでなく、互換性のある他社製モジュールも組み合わせられます。
OTONIWAでは、録音する声や楽器、目指すサウンドに応じて、APIを含む500シリーズ機材を使い分けます。公式の常設機材リストには、API 527コンプレッサーのほか、SSL、AMS Neve、Rupert Neve Designs、Shadow Hills Industriesなどの500シリーズ機材を掲載しています。
例えば、次のような考え方で経路を組みます。
- 声や楽器の個性を自然に残したい
- 音の輪郭や押し出しを加えたい
- ピークを整えながら演奏の勢いを残したい
- 複数の音をまとめたときの一体感を作りたい
使う機材を増やすことが目的ではありません。必要なときに必要な機材だけを選び、信号経路を短く明確に保つことが重要です。
なお、SSLは500フォーマットラックで30種類以上のモジュールをテストしたと説明する一方、すべての製品との互換性を保証しているわけではありません。実際の組み合わせは、電源要件や仕様を確認して運用します。
操作性の良さが、判断の速さにつながる
XL-Deskには、各チャンネルの100mmフェーダー、パン、ミックスバスへのルーティング、インサートなど、録音とミックスで頻繁に使う操作が手の届く位置に並んでいます。
画面上の小さな数値を追うだけでなく、耳で聴きながらフェーダーを動かし、複数の音を同時に調整できる。これは見た目の格好よさではなく、判断の速さと再現性に関わります。
4系統のミックスバスは、ドラム、楽器、ボーカルなどをグループごとにまとめたり、圧縮した音と元の音を並行して混ぜたりする使い方に対応します。チャンネルやバスから500シリーズへアクセスできるため、音色の比較や外部機器の選択も効率的です。
SSL公式導入記事では、Futureのエンジニア、Eric Mancoが、Futureの制作拠点である5 Star Production StudiosのBルームに導入されたXL-Deskについて、ミックスへ外部処理を挿入するときに、パッチを組み直さずボタンで選べることが作業を速めると説明しています。
良いテイクが生まれた瞬間に、操作で流れを止めない。アナログの音質と現代的な制作速度を両立できることが、XL-Deskの強みです。
XL-Deskの導入・使用が公式に紹介されているアーティストと制作現場
「有名アーティストが使っている」という言葉だけでは、機材選びの根拠として不十分です。ここでは、SSL公式ページでXL-Deskとの関係が確認できる例だけを整理します。
| アーティスト/制作者・施設 | 確認できる内容 | 導入・使用理由として確認できる点 |
|---|---|---|
| Future/5 Star Production Studios | Futureの制作拠点にあるBルームへXL-Deskを導入 | 外部処理をボタンで選択でき、アナログ機器を使う作業が速いとエンジニアが説明 |
| Daddy Kev | プロデューサー、レーベルオーナー、DJとして、本人のXL-DeskをSSL公式動画で紹介 | XL-Deskがアナログを制作ワークフローの中心へ戻したとSSLが紹介 |
| Jeremy Greenspan(Junior Boys) | 本人の新しいXL-DeskをSSL公式動画で紹介 | 使用環境と制作について本人が解説 |
| Ponderosa Studios | 多様な案件を扱う商業スタジオのXL-Desk導入例をSSL公式動画で紹介 | 宅録の「in the box」だけでは得にくい品質と制作環境を目指して選定 |
Future本人がBルームのXL-Deskを操作した、とまで公式記事が明記しているわけではありません。そのため本記事では、Futureの制作拠点に導入され、同チームの制作を支える一台として紹介しています。
日本でも貴重と言える理由
XL-Deskの国内導入台数を示すメーカーの公開資料は、今回確認できませんでした。そのため「日本に何台しかない」といった断定はしません。
一方で、18スロットの500シリーズラック、4系統のミックスバス、SSL Stereo Bus Compressorを一体化した実機を、エンジニアと相談しながら録音やミックスに使えることは、一般的な制作環境とは異なるOTONIWAの特徴です。
松山市道後で、SSLのアナログコンソールと複数メーカーのアウトボードを、作品に合わせた一つのシステムとして使える。その意味で、XL-DeskはOTONIWAにとって貴重な中核機材です。
最強の機材を、最適な使い方で
私たちが「最強アイテム」と呼びたいのは、XL-Deskが高価だからでも、著名な制作現場にあるからでもありません。
低ノイズで余裕のある信号経路、SSLらしい分離感とクリアさ、手で素早く判断できる操作性、そしてAPIを含む500シリーズで音を作り分けられる柔軟性。これらを一台の中でつなぎ、録音からミックスまで一貫して使えるからです。
OTONIWAでは、ボーカルレコーディングだけでも、バンドの同時録音でも、ミックス付きでも、マスタリング付きでも対応します。機材名だけでプランを決めるのではなく、作品の目的、編成、納品形態を伺い、必要な工程と信号経路をご提案します。
よくある質問
XL-Deskとデジタルミキサーの違いは何ですか?
XL-Deskは、本体内部でA/D・D/A変換やDSP演算を行わず、入力、フェーダー、インサート、ミックスバスまでアナログで処理します。アナログ入力を持つ一般的なデジタルミキサーは、入力をA/D変換して内部処理し、アナログ出力時にD/A変換します。ただし、XL-DeskからDAWへ録音するときは外部A/Dコンバーターが必要です。
S/N比が良いと、必ず良い録音になりますか?
必ずとは限りません。S/Nの良い機材は静かな音や余韻を扱ううえで有利ですが、演奏、声、録音環境、マイク選び、距離、ゲイン設定も重要です。OTONIWAでは、信号経路全体を見て調整します。
APIの500シリーズは使えますか?
はい。OTONIWAでは案件に応じ、XL-DeskにAPIを含む500シリーズ機材を組み合わせます。使用する機材は、声や楽器、求める音色に合わせてエンジニアが判断します。
XL-Deskを使えばSSLらしい音になりますか?
XL-Deskには、SSLが特徴として挙げる分離感、明瞭さ、パンチを生かせる信号経路があります。ただし、最終的な音は録音素材、ゲイン設定、接続する機材、ミックス方法で変わります。
録音だけ、ミックスだけでも依頼できますか?
はい。OTONIWAでは、録音のみ、ミックスのみ、マスタリングのみのご相談にも対応しています。ボーカル、バンド、ナレーションなど、内容と希望納期をお知らせください。
参考資料
レコーディング・ミックスのご相談
録音内容や機材の使い方、ミックスなど、必要な工程を組み合わせてご相談いただけます。
